特別受益・特別寄与で弁護士が一番勘違いしている点―「生計同一者」問題

多くの遺産分割事件の処理を通じて、遺産分割にある程度精通している弁護士でも、「え、この先生、こんなこと知らないの?」と思うことがある。それは、特別寄与・特別受益に関する生計同一者の立場である。

この前、遺産分割で、相手方代理人が特別寄与に関する意見書を提出された。非常に勉強した痕跡があり、大変感心したが、根本的な点で勘違いをされていた。生計同一者問題である。

〔説例1〕
例えば父A、母B、長男C、長女Dの4人家族で、父Aが、生前、長男Cに事業資金として多額のお金を贈与していたとしよう。
この場合、父Aが、死亡したとき、その贈与が「生計の資本」と認められる限り、遺産の前渡しがあったとして、長男Cに特別受益が認定される。
ただ、往々にして、Aが死亡したときは、「とりあえず父Aの遺産は全部母Bのものにして、母Bが亡くなったときに、CとDで話しあいましょう」というような遺産分割が行われる事が多い。
そこで、母Bが死亡し、CとDで、双方が弁護士をたてて遺産分割調停を行うことになった。
Dの弁護士の主張「Cは、生前、Aから多額の事業資金援助を受けていた。その分は特別受益として考慮されるべきだ」
Cの弁護士の主張「Cが、Aから多額の生計の資本の贈与を受けていたことは認める。しかし、Bからは、贈与は受けていない。Bの遺産分割で特別受益は関係ない」

この場合は、Cの弁護士の主張が正しい。一般民事では、結果の妥当性から、実質的に考え、生計同一者の行為は、一体的に認定することが多い。「父からもらったが母からはもらっていない」というような詭弁は通らない。
しかし、遺産分割では、逆に形式論理を重んずる。生計同一者でも、人格が異なれば、他人と考え、考慮しない。したがって、生前、父Aから多額の援助を受けていたCは、全く援助を受けていなかったDと同等の遺産を取得できる。調停委員会としては、結論の妥当性を考え、Cに譲歩を打診することがあるが、Cが拒否すれば、それまでである。
福島家裁白河支部判決で、これと異なるような判決がだされており、よくこの判決を引き合いに出す弁護士が多いが、あの判決は、実務では全く考慮されていない。「そんな判決もあるようですねぇ」というレベルの認識である。

〔説例2〕
被相続人が父A、相続人が長男B、Aと養子縁組をしたBの妻C、次男Dだったとしよう。BC負債は夫婦で事業を営んでおり、父AがBC夫婦に多額の事業資金援助をしていた。ただし、振込先や領収書は全てB名義だった。
こういう場合にAが死亡し、B・CとDとの間で、遺産分割調停が提起された。
Dの弁護士の主張「AB夫婦は、生前、多額の資金援助を受けていた。特別受益として考慮すべきだ」
B・C弁護士の主張「Bは特別受益を認定されてもやむを得ないが、資金の提供を受けていたのはBであって、Cではない。Cは、法定相続分を主張できる」
この場合、BC弁護士の主張が正しい。

若い人は知らないだろうが、昔、リクルート疑惑事件という政治スキャンダルがあった。政治家がオーナーから公開直前の未公開株を安値でもらい、公開直後に売却して売り抜けて多額の利得を手にした。それが発覚して、世間の顰蹙をかったこのだが、その際、政治家が「私は知らない。妻がもらった」と弁解して世間の失笑をかった。当時は、みっもない弁解として「私の妻が」というのが、流行語にさえなった。しかし、遺産分割の世界では「私は知らない。妻の行為だ」という弁解が通用するのだ。

〔説例3〕
父A、母B、長男C、長女Dの4人家族で、Cが献身的に父Aを介護し、その介護は特別寄与と認定されるレベルだったとしよう。
この場合、父Aが死亡したが、その段階では、「とりあえず父Aの遺産は全部母Bのものにして、母Bが亡くなったときに、CとDで話しあいましょう」ということになった。
そこで、母Bが死亡し、CとDで、双方が弁護士をたてて遺産分割調停を行うことになった。
Dの弁護士の主張「Cは、生前、Aに献身的な介護をしてきた。その分は、特別寄与として認定されるべきだ」
Cの弁護士の主張「Cが、Aに献身的な介護をしていたことは認める。しかし、Bを介護していない。Bの遺産分割でAに対する特別寄与は関係ない。法定相続分で分割されるべきだ」
この場合、C弁護士の主張が正しい。

それでは、形式論理の立場を貫くとしても、以下の例ではどちらの主張が正しいだろう?
〔説例4〕
被相続人が父A、相続人が長男B、次男Bだったとしよう。Bは何ら父Aを介護していなかったが、Bの妻Dが、献身的にAを介護していたとしよう。Aが死亡し、遺産分割調停が行われることになった。
B代理人の主張「Bは介護していないが、Bの妻が介護していた。Bの妻の介護は、Bの特別寄与と考えるべきだ。」
C代理人の主張「介護していたのはBの妻であって、Bではない。Bには特別寄与はない」


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